彫刻家 川島史也さんにインタビューしました!
<彫刻を始めたきっかけ>
ROJIBI(以下R):大きいですね。笑
川島:重さは150kgになります。
R:すごい、、、羊、好きなんですか?笑
川島:特別好きというわけではないですけど、、、笑。 彫刻を始めた頃、牧場が近くにあって、モチーフを探しに牧場のふれあい広場に行っていたのですが、いろんな動物がいる中で一番気になったのが羊でした。顔の形とか、ものすごく臆病な感じとか、、、。
R:彫刻を始めたきっかけは何だったんですか?元々絵を描くのが好きだったとか?
川島:いや、僕はずっと中学高校で卓球をやってたんですけど、卓球が強いという理由で高校を選んだのですが、高校の美術の教師だった藤沼多門先生がとても面白くて、ちょっとずつシフトしていった感じです。美術の授業で描いた50号の油絵が県展に選ばれたりして、美大に行きたいと先生に相談したら、じゃあまず卓球をやめるんだなと、、、。
R:それで卓球をやめて美術の世界に、、、
川島:いや、でも卓球はやめられなくて。笑 美大だと早いうちから美術予備校に通って準備をしないといけないのですが、それ以外の選択肢としては教育学部で美術を専攻するという方法があり、勉強は出来ない方ではなかったので、それで何とか切り抜けました。笑
R:なるほど。それで宇都宮大学に。
川島:そこで日原公大先生という彫刻家に出会ったのが、彫刻に目覚めた最大のきっかけです。なんかもうすごくて、弟子入りさせてくださいと。笑
R:おぉ、、、。笑
川島:それで大田原にある先生のアトリエ(那須野が原国際彫刻シンポジウムin大田原)に出入りさせてもらえるようになって、、、まずはアトリエの煙突を掃除したり、、、。
R:おぉぉ、、、。笑
川島:そのうち先生の作品を磨いたり補修させてもらえるようになり、ちょっとづつ先生の技を覚えていって、すごく貴重な時間でした。今でも彫刻を制作するときは、そのときの経験がベースになっているように思います。
「浮上する情動,夢見る乙女」(2013)
羊は触ってOK!
<筑波大学時代>
R:その後、宇都宮大学から筑波大学へと環境を変えていますね。
川島:日原先生が宇都宮大学を退官されたり、彫刻シンポジウムで出会った作家さんの影響もあり、先生に推薦していただき筑波大学の大学院を受験したのですが、、、。
R:が、、、。笑
川島:不合格になってしまい、、、。
R:えー!
川島:ただ、次の受験まで研究生として1年間学ばせてもらうことができました。この期間が結構重要で、今までやってきたことと、これから何をしていくかを見つめる良い期間でした。この期間を経て今回展示している羊、「浮上する情動、夢見る乙女」が完成しています。
R:「横転した羊、打ち付けられる身体」(2012)から打って変わって、羊から人の足が生えています。純粋なモチーフから、ある矛盾が含まれることによって、作品から想像するイメージの選択肢が膨らみますね。意外性もさることながら、羊と組み合わさるとシリアス過ぎず、どこか楽観的でユーモアを感じさせつつ、何か煮え切らないものを訴えかけられているような気もしますし、、、。言葉で表現するのは中々難しいですね、、、。だから彫刻で表現するのか!笑
川島:自分でもどうしてその作品を作っているのか正直よくわかっていないのです。笑 作る前に考えてはいても、作りながら変わっていきますし、作り終わってからこういうことなのかなと考えたり。僕の場合、木彫を彫り始めるときは勇気がいります。2mを超える大きな樟の塊を目の前に対峙すると、それ自体の迫力に「手を加えない方が良いのではないか?」という葛藤や畏れもあったりします。一本一本、木の性格も違うので、作る前に一生懸命考えていた事とぶつかることもあり、その場その場で調整が必要になります。
R:一口に表現といっても大変な労力によって支えられている、、、。
川島:彫刻の基礎的な訓練として、よく人をモデルにして塑像を行います。僕が意識しているのは、そこでは人体を塑像するのではなく、人物を塑像すること。人体ではなく人物を意識することで、表現の手法が飛躍できると考えています。違うモチーフと組み合わせたり、異素材を入れたりするというのは、ある意味その人物を表現するのに手段を選ばないと言えるかもしれません。一方で純粋にその人物だけを塑像し、そこに表現を込めるという考え方もあります。振り返ってみると、その行ったり来たりを繰り返しているように思います。
会場には作家さんの過去の作品ポートフォリオもあります!
<漆について>
「エイ」(2013)
R:今度は「エイ」についてお聞かせ下さい。
川島:これは筑波大在学時、漆の授業課題での作品です。漆は液体なので、モチーフは水の生き物にしようと、大洗水族館まで探しに行きました。この時期に海の生き物のモチーフが増えたのはそのせいかもしれません。栃木は海無し県なので海のある土地は少し新鮮でした。その中でエイの動きって想像できないような意外な動きをするのが面白いし、漆のヌメヌメした質感ともマッチするなと思い制作しました。
R:ポートフォリオを拝見すると「エイ」以降、漆を頻繁に使われるようになってますね?
川島:そうですね。今回展示している「壁に太陽」も仕上げに漆を使っています。実は漆についての論文も書いていて、漆の可能性を探求しています。
R:漆の専門家だったんですね!笑
川島:伝統的な仏像などには漆はよく使われていたのですが、現代彫刻で漆が使われることはかなり減ってきています。なので逆に漆を探求することで新しい彫刻の表現が飛躍できるとも考えています。
R:なるほど。伝統的なものを咀嚼しながら新しいものを生み出していくということに共感を覚えます。川島さんの作品に感じるのは、過去を切り捨てずに新しいものを受け入れるという葛藤がある感じで、多くの要素を含みながら一つの作品に集合しているような、そんな印象を受けます。
「壁に太陽」(2019)
<実像と虚像、モデルの不在と実在、新作「Doppelganger in the water」について>
新作「Doppelganger in the water」
R:作品を作るときは必ずモデルさんがいらっしゃるんですか?
川島:いる時もありますし、いない時もあります。いない場合は仮に人物を当てはめてイメージをしています。
R:因みに新作「Doppelganger in the water」にモデルさんは?
川島:これはいないですね。笑
R:素人目にはわからないですね。笑 このアクリルは水に見立てられている?
川島:そうですね。水面はしばしば揺れているため、水面に映る虚像は、はっきりと捉えることができないことが多いです。そのため、水面に映る虚像として表現した人物像は具体的な形を示さず、抽象性を孕んだ状態で手を止めました。それと同時に頭の中で想像される曖昧な他者のイメージを僕は「Doppelganger」と呼んでいます。はっきりと捉えることができない、揺れ動く水面に映る虚像と、曖昧な他者のイメージである「Doppelganger」を重ね合わせ表現してみました。
R:しかもその実像のモデルは実在せず想像上のもので、、、、なんか合わせ鏡のような変な感じがしますね、、、。ちょっと深読みですかね。笑
川島:アートに正解はないので、、、。笑
以上
2019.7.7
「Doppelganger in the water」シリーズの新作「Doppelganger as a girl」
川島史也
Fumiya Kawashima
1989 栃木県足利市生まれ
2012 宇都宮大学教育学部学校教育教員養成課程 美術教育コース 卒業
2015 筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士前期課程芸術専攻 修了
2019 筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士後期課程芸術専攻 修了
<展示活動歴>
2012 第66回二紀展(東京都/国立新美術館)二紀賞/以後毎年出品
2013 第67回二紀展(東京都/国立新美術館)優賞
第76回河北美術展(宮城県/藤崎)河北賞
ベストセレクション 美術 2013(東京都/東京都美術館)推薦出品
2014 第68回二紀展(東京都/国立新美術館)準会員推挙
都美セレクション 新鋭美術家2014 (東京都/東京都美術館)委託出品
2015 会津・漆の芸術祭 うるし その可能性と未来(福島県/芳賀家蔵)/以後毎年出品
2016 第70回記念二紀展(東京都/国立新美術館)準会員賞
2017 第71回二紀展(東京都/国立新美術館)I氏賞
2019 川島史也展(茨城県/スタジオS)個展